King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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フルート・コンチェルト

   

今年のYour Concertの第2部は各楽器にフィーチャーしたステージとなっていますが、フルート協奏曲は演奏会全曲の中でも特にオススメしたい目玉のひとつ!

協奏曲と聞くと少し難解な音楽を想像されるかもしれませんが、この作品を聴くとビックリしますよ!楽しい雰囲気や、すっと染みてくる空気感にいつのまにか体が動き出すような。とっても親しみやすい曲調となっています。

フルート・ソロ、森 陽光による曲紹介をどうぞ。

 

フルート・コンチェルト / M.マウアー 指揮:久保田 善則

 

文:森 陽光(当団フルート奏者)

「フルート協奏曲」は、イギリスの作曲家マイク・マウアーが2003年にアメリカのテキサス・テック大学教授でもあるフルート奏者、リサ・ガーナーから依頼を受けて作曲されたフルートと吹奏楽(Wind Band)のための協奏曲である。演奏時間は約20分。

通常、フルート協奏曲といえばクラシック音楽家のモーツァルトやイベールといった作曲家の作品が有名であり、伴奏には管弦楽が用いられることが多い。しかし、今回の作品は吹奏楽が伴奏という非常に珍しい形態であり、内容も一風変わったものとなっている。

 

作曲者のマウアーは、ロンドンのロイヤル・アカデミーでフルートを学び、現在は作編曲家、ジャズ・サックス奏者として活動している。また、クラシック音楽とジャズ音楽を融合させた新しい音楽を追及しており、クラシック音楽をベースにしながらもジャズ特有の和音やリズムなどを取り入れた作品などが特徴的である。

・ソナタ・ラティノ(FlとPfの作品)

第1楽章はサルサ、第2楽章はタンゴ、第3楽章はサンバといった中南米の音楽を1曲に盛り込んだ異色のソナタ

・ヴェニスの謝肉祭の逸脱(FlとPfの作品)

ロマン派音楽の作曲家ジュナンのヴェニスの謝肉祭にジャズ要素を取り入れ斬新にアレンジした変奏曲

 

マウアーにとって、フルート+吹奏楽という組み合わせの曲を書くのはこの曲が初めてであり、作曲は難航したと語っている。しかし、吹奏楽(Wind Band)の編成をビッグバンドジャズに音色の異なる楽器を加えたものとしてとらえることで、非常に珍しい形態の曲を成り立たせている。特に、ドラムセットを含む打楽器群がリズミカルな動きをしており曲全体のビート感に影響を与える役割を担っている。また、メロディーはジャズ特有のコード進行やリズムが見られるものの、曲構成はいずれの楽章もクラシック音楽で用いられるソナタ形式となっており、ジャズとクラシックを融合したマウアーらしい音楽とも言える。


 

「第1楽章」

疾走感のあるスネアドラムのリズムの中に独奏フルートが技巧的な主題を奏でる。全体を通して、独奏フルートは終始細かいパッセージを奏で続け、伴奏の管楽器はフルートのメロディーラインを邪魔しない形で挿入される。木管楽器の激しくうねるような動きで盛り上がりを見せた後、再びスネアドラムとフルートの主題に戻り、疾走感を持ちながらも静かに曲は終わる。

・1楽章冒頭のフルート独奏。ジャズ特有のコード進行で成り立っており、ベースとなる和音が目まぐるしく変化している。

 


 

「第2楽章」

木管楽器の弱奏部に独奏フルートが叙情的で神秘的なメロディーを奏でる。ハーモニーはジャズ独特の響きを入れながらも、無調を意識した現代音楽らしい部分も垣間見られる。音楽は徐々に盛り上がりを見せ、ドラムセットによるビートが挿入されるが独奏フルートは引き続き叙情的なメロディーを奏でる。時折リズミックなメロディーが入るが、全体的に曲調は静かであり最後は独奏フルートが冒頭の主題を奏で、消えるように曲は終わる。

・2楽章冒頭のフルート独奏。9小節目以降のメロディーは音の並びが無調音楽に似た形となっており、この乱雑さは3楽章にも引き続き見られる。


 

「第3楽章」

スゥイングジャズのリズムに乗り、独奏フルートと伴奏が掛け合いの形で軽快なメロディーを奏でる。この楽章では現代作曲家シェーンベルクが提唱した十二音技法(無調音楽の一つ)を用いた部分が各所に見られ、これをジャズ音楽に取り入れるという前衛的な試みが成されている。曲は徐々に盛り上がり各楽器が激しくリズミカルな音楽を作りあげた後、フルートとユーフォニアム・チューバのアンサンブル部を経てカデンツァに入る。再度主題のメロディーが奏でられ、曲調はクライマックスに向けてさらに激しさを増し、最後は独奏フルートのグリッサンドにより軽妙に曲を締めくくる。

・3楽章冒頭のフルート独奏。各メロディーは全てC~B音までの12音で成り立っており、同じ音が反復して用いられることはない。これが十二音技法であり、独奏フルートのカデンツァやラストのメロディーにも用いられている。

 

このように曲全体を通して前衛的な要素が多く、ソリストにも伴奏にも高い技術が求められるが、ジャズ特有のリズムに乗り縦を合わせられれば非常にカッコいい曲である。フルート+吹奏楽という現代的な編成で繰り出される新しい音楽の形を感じてもらえると幸いである。

 

 

 - 6th Your Concert, Program