King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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第10回ユアコンサート 曲紹介

   

1部

ビューティフル・オレゴン / J.バーンズ

この曲はアメリカオレゴン州のオレゴン・シンフォニック・バンドという吹奏楽団の設立20周年を祝って作曲されました。作曲者ジェームズ・バーンズがオレゴン・シンフォニック・バンドに楽譜と共に送った手紙には、「オレゴンの自然は非常に美しく、感銘を受けた」と綴られています。オレゴン州は太平洋岸北西部に位置し、森林や山々、農場、ビーチといった様々な景観に恵まれた場所として有名です。作曲者の出身地、カリフォルニア州はこのすぐ南にしており、親しみやすい地域だったのかもしれません。そんなオレゴン州の魅力が凝縮された曲となっています。
曲は、金管楽器の鮮やかなファンファーレから幕を開け、徐々に旋律音形の楽器を増やしたあとにこの曲のテーマである7/8拍子の旋律へと移っていきます。このリズミカルな主題が転調、展開していく中で様々な楽器やリズムで重ねられ、最初のクライマックスを迎えます。中間部はユーフォニアムとファゴットのアンサンブルから始まり、オーボエとイングリッシュホルンが中心となって優しく柔らかな旋律を奏でます。中間部の鍵を握るのはホルン、トロンボーン、ユーフォニアムの金管中低音セクションです。ハーモニーをみせながら旋律の盛り上がりに応じて歌い込み、中間部を立体的で味わい深いものにする役割を担っています。オレゴンの自然の壮大さを描き出した、どこか懐かしい雰囲気をお楽しみ頂けると幸いです。そして曲は変拍子を伴って再び盛り上がります。中間部とは打って変わった軽快さとリズミカルな進行が特徴的です。終盤、重厚感溢れるフレーズの後、中間部のゆったりとしたメロディーが再現されます。その後は息もつかせぬ速さでラストまで突き進みます。7/8拍子、4/4拍子、3/4拍子、6/8拍子と、目まぐるしく拍子を変え、最後は主題の7/8拍子に落ち着いて曲は締め括られます。

ドラゴンの年(2017年版)/ P.スパーク

ウェールズのブラスバンドの委嘱を受けて1984年に作曲された曲で、翌年作曲者本人によって吹奏楽版に編曲されました。本日演奏する「2017年版」は30年以上の年を経て作曲者が再度編曲を行ったバージョンで、木管低音や打楽器が多用される現代的な編成に変更されています。
曲名の由来は、委嘱したバンドが活動するウェールズの旗に描かれているドラゴンで、第三楽章にはファゴットにはじまるウェールズのファンファーレも登場します。曲は3つの楽章で構成され、「悪意」と作曲者が表現する強烈な冒頭部分のインパクトと、フルートによって軽やかに奏される中間部分とのコントラストが印象的な第一楽章「トッカータ」、物憂げなサックスソロと美しいコラールからなる第二楽章「間奏曲」、バンド全体がすさまじい連符を奏し、ファンファーレと絡み合ってクライマックスを迎える第三楽章「終曲」から成ります。
ウェールズは、ブリテン島の中でも多くの古城や自然といった中世以来の文化や景観を色濃く残している地域です。本日の演奏でそうしたウェールズの歴史の薫りを感じていただければ幸いです。

大序曲《1812年》/ P.チャイコフスキー / 編曲:木村吉宏

大序曲《1812 年》 はピョートル・ チャイコフスキーによって1882 年に作曲された曲で、チャイコフスキーの友人が救世主ハリストス大聖堂の記念式典のために依頼したものです。この大聖堂は1812年、ナポレオン率いるフランス軍がロシアに侵攻し、一時モスクワを占拠するもロシア軍が追い返して勝利した出来事にルーツがあり、その戦勝記念と戦没者の慰霊のために建立が命じられた背景があります。70 年の時を経て大聖堂は完成し、その記念式典に及んで書かれたのが大序曲《1812 年》なのです。
ところで、実は作曲にあまり乗り気でなかったチャイコフスキーは曲の構成を他の作曲家の作品に見出しました。それがL.v. ベートーヴェン作曲の「ウェリントンの勝利」という曲です。この曲はビトリアの戦いにおいてイギリス軍がフランス軍に勝利した様子を、イギリス軍を象徴する当時の愛国歌「ルール・ブリタニア」、そしてフランス軍を表す民謡「マールボロ行進曲」を曲中に登場させることで戦いの場面を音楽的に表現しました。ここにヒントを得たチャイコフスキーはフランス代表「ラ・マルセイエーズ」、ロシア代表「ロシア民謡、ロシア帝国歌」としてなんとそのままベートーヴェンのアイデアを頂戴してしまったのです。冒頭がロシア聖歌で始まり、戦争を想起させるような重々しい場面へ移ります。しばらくして軍隊の行進のような軽快な太鼓とホルンのフレーズが始まったかと思えば再び緊張感のある場面に入り、次第に「ラ・マルセイエーズ」のフレーズが姿を現してきます。ついぞそのフレーズが完全なものとなってフランス軍は一時的にロシアに対して優勢になってしまいました。果たしてこの後どのような展開を迎えるのか、曲の雰囲気から「ここは戦いなのかな?どっちが勝ったんだろう?」などたくさん想像しながら聞いてみてください!冒頭のロシア聖歌のフレーズ、最後まで覚えておくと何か気づきがあるかもしれませんよ。

2部

エル・カミーノ・レアル / A.リード

【吹奏楽の神様】とまで言われるアメリカの作曲家、アルフレッド・リードの代表作の一つです。アメリカの第581空軍軍楽隊の委嘱により1985年に完成した作品でタイトルはスペイン語「王の道」の意。道が華やかに飾られたなかを、国王の行列が通り、随行した楽団や舞踏団が沿道の人々を楽しませている様子を思い描き、曲にしたそうです。タイトルがスペイン語ということもあり、曲にはスペイン音楽の雰囲気が盛り込まれ、「ラテン・ファンタジー」という副題まで与えられています。ですが、完全にスペイン音楽の模倣というわけではなく、リード流に咀嚼され用いられていることも、人気の一つだと思います。

ゲッタウェイ / P.コー、B.テイラー / 編曲:青木タイセイ

「Getaway Just leave today Just getaway」という歌詞から始まるこの曲は、「セプテンバー」など数々の名曲で知られる伝説的バンド、アース・ウィンド&ファイアー(EWF)の楽曲のひとつです。今回は熱帯JAZZ楽団アレンジされたものを吹奏楽で演奏します。印象的なイントロから始まり、セクションごとに次々にメロディーが受け渡されていきます。いくつかの楽器によるソロはもちろん、ゲストプレイヤーとギャンビットメンバーとのセッションもみどころです。お楽しみください!

マンボのビート / P.プラード / 編曲:杉本幸一

マンボを語る上では、「マンボ王」と称されたペレス・プラード無くしては語ることはできません。プラードの手がけた曲としては「マンボNo.5」や「タブー」といった有名な曲があります。サックスの歯切れ良さ、トランペットのリズム、複雑に入り組むスタイルのマンボはプラードによって確立されました。今回お送りする「マンボのビート」はプラードが考案した「マンボ・バティリ(Mambo Batiri)」という、テンポが速くパーカッションが活躍するスタイルのナンバーです。この曲はフジテレビのお昼のバラエティ番組「ライオンのごきげんよう」のオープニングとしても長年使用されていたため、聴いたことがあるという方もいらっしゃると思います。

エル・クンバンチェロ / R.エルナンデス / 編曲:岩井直溥

プエルトリコの作曲家、ラファエル・エルナンデスによる代表曲です。「エル・クンバンチェロ」とは「口の広い盃(=クンバ)を叩く男」という意味で、ニュアンス的には「飲んでお祭り騒ぎをする男」といった感じになるそうです。もちろん、ステージ上では全員ノンアルコールですが、演奏する方も聴く方も楽しくなってくる1曲です。野球の応援でもよく使われ、吹奏楽の演奏会でもたびたび取り上げられる曲でありますが、バルトークの「管弦楽のための協奏曲 第5楽章」にも使われているとされています。バルトークが作曲しているときに机にラジオを置いていたようで、そこから流れてきたのかもしれません。

3部

「オーボエ協奏曲 ハ短調 KV 314」より第一楽章 / W.A.モーツァルト / 編曲:坂井貴祐 / オーボエ独奏:上田由実

1777年にザルツブルクのオーボエ奏者ジュゼッペ・フェルレンディスのために書かれた作品です。ほぼ同一の内容である、「フルート協奏曲ニ長調K.314」の原曲であるというのが通説となっています(どちらが原曲であるかは諸説あります)。本来はオーケストラによる伴奏で演奏されますが、当楽団では吹奏楽版に編曲されたものを演奏致します。独奏オーボエは高度なテクニックや表現力が要求される難曲です。
アレグロ・アペルトという速度記号と発想標語が記されております。アレグロは速く、アペルトは「開放的な」「明瞭な」といった意味を持つイタリア語です。その言葉の通り、明朗快活なオーケストラのtuttiで始まります。2つの主題が提示された後、独奏オーボエが登場します。ハ長調の音階を駆け上り、主音であるC音の長いロングトーンの後、非常に技巧的なパッセージを演奏します。第2主題は属調で提示され提示部が結ばれます。展開部が短いのがこの楽章の特徴です。短いながらも次々と転調を繰り返し多様な和音が現れます。再現部を経て、楽章の結びにはカデンツァが入ります。このカデンツァは独奏オーボエ奏者が自ら作曲し演奏する腕の見せ所です。
ロマンティックな旋律美と、技巧的な華やかさを併せ持つ、モーツァルトらしい楽曲です。「夢を見るから、人生は輝く」モーツァルトの遺したこの言葉のように、夢を思い描く心のときめきを感じていただけますと幸いです。

ディベルティメント / O.ヴェースピ

Divertimento(ディベルティメント)は、スイスのチューリッヒ生まれの作曲家、オリヴァー・ヴェースピによって、2011年にスイスのザンクト・カレンで行われたコンテストの課題曲として作曲されました。その難易度は吹奏楽の中でも非常に高く、その分演奏する価値のある曲です。
ディベルティメントとは、18世紀中頃に登場した音楽の形式で、イタリア語の「divertire(楽しませる)」が由来です。深刻さや重厚さを避けて軽快で楽しい雰囲気を主体とし、当時は貴族の食卓や社交の場、祝賀の席で演奏されました。
この曲は4つの楽章で構成されており、まるで一つの映画を見たかのように感じさせる曲です。第1楽章「プレリュード」は、派手で華麗かつヴェースピの特徴である透き通るようなハーモニーで始まり、何か楽しいことが起きるかもしれないと思わせます。第2楽章「メディテーション」は「瞑想」を意味し、オーボエ、フルート、ホルン、サックスのソロが印象的です。本来ディベルティメントでは深刻さや重厚さを避けますが、この楽章はあえてその方向性に沿わなかったと考えられます。第3楽章「プロセッション」は、ニューオーリンズのジャズスタイルの行進をモチーフに、陽気な雰囲気を醸し出します。カホンのリズムに合わせて少しずつ楽器を増やしながらビートを刻み、最後は全体で大きなメロディーを奏でます。思わず体が動いてしまう、そんな楽章です。第4楽章「ホーダウン」は、アメリカの伝統的なフォークダンスの要素が取り入れられ、活気あるリズムと魅力的なパッセージが矢継ぎ早に表れます。それだけでも聞き応え十分ですが、後半はクライマックスに向けて徐々にスピードを上げ、疾走感あふれるフィナーレで締めくくられています。

ゴルトベルク2012 / S.ギスケ

この曲はノルウェーの作曲家、スヴェイン・ヘンリク・ギスケによって2012年に作曲されました。「ゴルトベルク」と聞くと、勘のいいクラシック好きの方はもうお気づきだろうが…。そう、かの有名なJ.S.バッハが18世紀に作曲したクラヴィーア(ピアノの原型となる楽器)のための変奏曲「ゴルトベルク変奏曲」がモチーフとなっています。ゴルトベルク変奏曲は、かつて不眠症に悩まされていたカイザーリンク伯爵が「穏やかでいくらか快活な性格をもち、眠れぬ夜に気分が晴れるような曲を書いてほしい」とバッハに依頼した曲です。それを演奏したのがバッハの教え子のゴルトベルクであるため「ゴルトベルク変奏曲」と呼ばれているそうです。(正式なタイトルは「アリアと種々の変奏」)
さて2012年版はというと、原曲の「夜に聞きたい穏やかな曲調」とは打って変わって、ジャズ・ポップ・ロックといった現代の音楽の要素をふんだんに取り入れてアレンジした作品になっています。曲は6つの楽章(Ⅰ:Aria 2, Ⅱ:Toccata, Ⅲ:Aria 1, Ⅳ:Transmogrifying Bach(変身するバッハ), Ⅴ:From long ago, Ⅵ:Rhapsody on Bach & Brecker)からなっています。Aria以外の楽章は「これバッハか?(笑)」となること間違いなしですが、特に第6楽章はもはやポップス。Breckerというのはグラミー賞も獲得したバンド「Brecker Brothers」のことですが、その楽章名にふさわしいキレッキレのリズムとノリに支配されたゴルトベルク変奏曲を聞いたら、流石にバッハも腰を抜かすでしょう(汗)
この曲のもう一つの特徴は、ここでしか聞けないような複雑なリズムパターンが目白押しということ。5拍子を6つで割る「5拍6連」や「4拍7連」など、奏者も観客も悩ませるような譜面のバーゲンセールとなっております!ムズイヨ!!もちろん、そんな難解さを忘れるくらいの格好いいソロや美しいメロディー群団があなたを魅了します!天国のバッハがこの「エクストリーム・バッハ」とも言える超カッコイイ2012年版を聞いてどういった顔をするのか。考え始めると夜しか眠れません。

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