King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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アルメニアン・コラム パートⅠ

      2022/05/05

第1回:アルメニアについて知ろう!~導入編~

文:木村 颯 《当団トロンボーン奏者》

目次

連載にあたって
1.どこにあるの?どうやって行くの?
2.基本データを比べてみよう
3.アルメニアの音楽って?

連載にあたって

5月7日(土)枚方市総合文化芸術センターにて、King’s Gambit Wind Orchestra第8回定期演奏会を開催します。新型コロナウイルスの流行により中止と延期を繰り返してきましたが、3年ぶりにギャンビットの定期演奏会が帰ってきました!依然として感染拡大には予断を許さない状況ではありますが、音楽を奏でる喜びを日々かみしめながら練習に励んでいます。3年分たまったギャンビットのパワーを、是非当日会場で体感していただければと思います。

さて、今回の演奏会のメイン曲である交響曲第3番「コミタスに捧ぐ」は、19世紀後半から20世紀前半に活躍したアルメニアの音楽家コミタスの生涯に捧げられた楽曲です。「コミタスに捧ぐ」は、その演奏時間の長さや高い難易度が壁となり、なかなか演奏機会に恵まれない曲です。しかし、そこで使われている民謡の数々やテーマとなっているコミタスの生涯など、知れば知るほど奥深い曲です。筆者はこの楽曲に人生を狂わされました。

そこでこの連載では、「コミタスに捧ぐ」を本番当日に何倍も楽しめるように、アルメニアおよびアルメニア人についてより身近に感じてもらうとともに、コミタスについて深く知れるようなコラムを全5回でお届けしたいと思います。

第1回の今回は導入編ということで、アルメニアとはどこにあるのか、どんな国なのか、音楽における有名人などについてざっくりざっくりご紹介します。

1.どこにあるの?どうやって行くの?

ヨーロッパの東の端にある黒海と、中央アジアの西の端にあるカスピ海。この二つの「端」に挟まれた縦に長く伸びる地域はコーカサスと呼ばれています。アルメニア共和国はこのコーカサスの南部に位置しています。コーカサス南部には他にジョージア(グルジア)やアゼルバイジャンがあります。コーカサスを横断する急峻なコーカサス山脈を越えると、北コーカサスと呼ばれる地域があります。この地域はロシアの領土となっており、チェチェンや北オセチアなどのロシア連邦を構成する共和国があります。

ヨーロッパとアジアの「端」に挟まれた領域であるコーカサスは、古くからヒトやモノが行き来してきた文明の十字路です。東の文化と西の文化の結節点にあるアルメニアでは、東洋的でもあり西洋的でもあり、しかしそのどちらにも割り切れない独自の文化が育まれてきたのです。また、コーカサスは北はロシア、南はトルコやイランと接しています。有史以来大国同士の緩衝地帯になってきたこの地では、さまざまな大国や支配勢力の影響を受けた文化が形成されてきました。

アルメニアがどこにあるのか、それがどういう地域なのかを知ると、以前よりアルメニアが身近に感じられるのではないでしょうか。「行ってみたい!」と思われる方もいるかもしれません。しかし、実際に行くとなるとこれが結構大変です。

日本からのルートは主に二つです。一つは中東経由。ドバイやカタールなどでアルメニア行の飛行機に乗り換えます。もう一つはロシア経由。モスクワで乗り換えるのですが、こちらのルートはしばらく使えなさそうですね。

筆者が以前アルメニアを訪れたときはロシア経由だったのですが、飛行機の上から見えたコーカサス山脈が絶景でした。5000メートル級の山々が果てしなく続いているような光景は、この世のものとは思えませんでした。またロシアから飛べるようになる日が来てほしいと願っています。

共和国広場で開催されている噴水ショー。ゲーミングキーボードのような色づかいだ。

2.基本データを比べてみよう

アルメニア共和国の基本データを、身近なデータと比べてなんとなくどんな国かを把握してみましょう。まず面積ですが、アルメニア共和国の面積は約3万平方キロメートル。近畿地方の二府五県が合計で約3万3千平方キロメートルなので、アルメニアの面積は近畿地方より少し小さいくらいとなっています。

次に人口ですが、アルメニアの人口は約300万人。大阪市の人口が約270万人なので、アルメニアの人口は大阪市より少し多い程度です。ですが、アルメニア人は世界中に離散しており、その総数はアルメニア国内の人口より多いとも言われています。この世界中に離散したアルメニア人、いわゆるアルメニア人ディアスポラに関しては第4回の記事で詳しく扱う予定です。

経済はどうでしょう。日本の2020年の名目GDPはおよそ5兆ドルでした。一方のアルメニアはおよそ126億ドル。もちろん人口規模が違うので当然と言えば当然ですが、日本の約400分の1とかなり小さい値となっています。天然資源を持たないアルメニアはITや観光に力を入れようとしていますが、失業率は2020年で18%と苦しい状況が続いています。お隣のアゼルバイジャンは油田を持っているため、GDPはアルメニアの約3.5倍となっています。2020年の秋に起こったナゴルノ・カラバフ紛争によって生じた避難民問題や、ロシアルーブルの急落によってアルメニア経済は更なる打撃を受けています*¹。

*¹アルメニアではロシアに出稼ぎに行く人が多いため。

3.アルメニアの音楽って?

日本で普段生活していると、アルメニアと接点を持つことは少ないかもしれませんが、実は音楽では思わぬところにアルメニアが出てきます。

クラシック音楽では、作曲家のアラム・ハチャトゥリアンが最も有名ではないでしょうか。お隣ジョージアのトビリシという町でアルメニア人の家庭に生まれ育ったハチャトゥリアンは、アルメニアの民俗音楽の要素を自身の作品に取り入れました。クラシック音楽にて多大な功績を残したハチャトゥリアンはアルメニア人の誇りであり、アルメニアで一番大きなコンサートホールはアラム・ハチャトゥリアン・コンサートホールと名付けられており、ホールの前にはハチャトゥリアンの銅像があります。

アラム・ハチャトゥリアン・コンサートホールとハチャトゥリアン像

シンバルのメーカーとして有名なジルジャン(Zildjian)は、アルメニア人のシンバル職人であるアヴェディス・ジルジャンが17世紀にイスタンブルで興したブランドです。同じく有名シンバルメーカーであるセイビアン(Sabian)もジルジャン一家から枝分かれしたメーカーです(その舞台裏ではドロドロの法廷沙汰が繰り広げられました。シューズブランドのA社とP社みたいですね)。

吹奏楽をやっていた、あるいは演奏会に行ったことがある人の中にはアルフレッド・リード《アルメニアン・ダンス》をご存知の方も多いと思います。今回のギャンビットでも《アルメニアン・ダンス パート1》を演奏しますが、この楽曲はアルメニアの民謡を基に作曲されました。そしてその民謡を収集したのが、今回のメイン曲「コミタスに捧ぐ」のコミタスなのです。

そのコミタスがどういう人物なのかは次回以降で詳しくご紹介したいと思います。次回はアルメニアの歴史について迫ってみようと思います。つづく。

コミタス音楽院の前にあるコミタス像。
股間に花が供えられている。

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