オセロ / A. リード
文:向井啓祐(当団団長、第6回定期演奏会-指揮者)
この曲はイギリスの劇作家シェイクスピアの書いた四大悲劇のひとつ、『オセロ』をもとに、吹奏楽作品の巨匠アルフレッド・リードが作曲しました。5つの楽章で構成され、オセロの物語の各シーンを色彩豊かに、激しい感情表現をもって見事に描いています。
Ⅰ.前奏曲〈ヴェニス〉
Ⅱ.〈キプロス〉
Ⅲ.〈オセロとデズデモーナ〉
Ⅳ.〈廷臣たちの入場〉
Ⅴ.終曲〈デズデモーナの死〉
この物語のテーマは「疑い」です。
戦の英雄として名声を手に入れていたヴェニスの黒人将軍:オセロの周りには、美しく誠実な妻:デズデモーナと、オセロを尊敬してやまない副官:キャシオ、そしてオセロが自分でなくキャシオを副官に昇格させたことでオセロを恨み、いつか失脚させてやろうと画策する:イアーゴがいました。
このイアーゴには人の「疑い」の心を操る才能がありました。物語が進む中、あの手この手でキャシオを貶め副官から蹴落とし、「デズデモーナに頼み込めば復職できる」と囁きます。
そうしてキャシオとデズデモーナが近づくと、イアーゴはオセロに巧みに語りかけ、二人の間に浮気があると思い込ませます。
疑いが心を蝕み、ついに苦しみに耐えきれなくなったオセロは、新たに副官となったイアーゴにキャシオの殺害を命じ、自分は妻、デズデモーナを絞め殺してしまいます。
しかし、イアーゴの妻から全ての真相が語られ、キャシオもデズデモーナも最後までオセロを裏切ってなどいなかったことを知り、自ら死を選びます。
なんという悲劇。後悔が後悔を呼び、己の心の弱さを思い知る。そんなオセロの悲鳴と嗚咽が5楽章で奏でられ、身も心も彼と同じ喪失感に浸りながら幕を閉じます。
人間の持つ心の弱さ、もろさの内に、切ない美しさをみる、そんな作品となっています。
どうぞ最後までお楽しみください。
アルフレッド・リード(Alfred Reed)
1921年に生まれ、2005年、惜しまれながら亡くなった、アメリカの作曲家・指揮者である。吹奏楽においては、20世紀を代表する音楽家の1人とされる。200曲以上の吹奏楽作品があり、吹奏楽をブラスバンドからウィンドオーケストラという構成に変え、シンフォニックな音楽を演奏するという形を作り上げたことからも「吹奏楽の父」と呼ばれ、今もなお多くの代表作が演奏される。指揮者としての活動も活発で、親日家でもあり来日回数も多く(最晩年にも来日している)、国内プロ楽団との共演など日本での人気も大きい。当団では第5回Your Concertにて〈エルサレム讃歌〉などの演奏がある。