King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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サガ=キャンディダ / ウエストサイド・ストーリーより シンフォニックダンス

   

Your Concert、第3部はミュージカルにスポットをあてた曲が並びました。

キャッチーな音楽ながらもその奥行きは深く、吹奏楽のスケールを余すことなく生かした贅沢なサウンドでお届けしたいと思います。物語を追うように展開していく音楽は、時にスリリングに、時に甘く切なく、その表情をコロコロと変えながら進むのが特徴的。今回演奏する『サガ=キャンディダ』は「サタンの種」より、『シンフォニックダンス』は「ウエストサイド・ストーリー」より、テーマに悲しみと愛をもつ二つのミュージカル作品からの組曲形式となっている吹奏楽の名盤です。簡単なあらすじと合わせてお楽しみいただくと、楽曲のもつ魅力がより一層感じられるかもしれません。

『サガ=キャンディダ』はこの曲を指揮する浜辺章に、『シンフォニックダンス』は第2部でも活躍する森山慎也に曲紹介をしてもらいました。

 

サガ=キャンディダ 指揮:浜辺 章

 

この曲は、現代のベルギーを代表する作曲家ベルト・アッペルモント(1973~)が作曲したミュージカル『サタンの種』の劇中曲で構成されています。ベルギーといえば世界屈指の吹奏楽が盛んな国であり、このミュージカルも吹奏楽バンドの伴奏によって上演されます。『サタンの種』は17世紀ヨーロッパの魔女狩りをテーマとしており、村で人々に医術を提供している女性エリザベスが、彼女とその娘カテリーナを妬む人々によって魔女だと告発される物語の中に、愛と感動が描かれたミュージカルです。『サガ=キャンディダ』ではその中の7つの曲が物語を追って以下のように進行します。

イングリッシュホルンの静かなソロに始まる《Ⅰ、序章 Opening》では、近世のスペイン領ネーデルラント(現在のベルギー)の村を描いたような静かな調べに続いて、旧約聖書の詩篇の一節「私を憐みたまえ、主よ汝の慈しみをもって」が歌われます。ドラマチックに曲が展開すると《Ⅱ、告発 Accusations》が始まり、エリザベスを魔女だとみなした村人たちが、彼女を家から引きずり出して「エリザベスは魔女だ!」と口々に非難します。魔女狩りの狂乱を表す音楽が終わると、《Ⅲ、純潔(愛) Innocence (Love)》が様々な楽器によって奏でられます。この場面では、エリザベスの娘カテリーナが青年トーマスに想いを伝えるが、トーマスは魔女と言われているエリザベスの娘の気持ちに応えることをためらいます。カテリーナはただ愛していると言ってほしいと頼むが、トーマスは応えなかった。せめぎあう彼女らの想いが胸を打つ、前半のクライマックスです。

曲の後半からは打って変わって怪しげな曲調になり、妖艶な《Ⅳ、タンゴ Tango》と悪魔召喚の儀式《Ⅴ、サバト Sabbath》によって切迫しながら高揚していきます。挑みあうようなソロに導かれて頂点に達すると、ユーフォニアムとクラリネットによって重く苦しい葬送行進曲《Ⅵ、死 Death》が奏でられ、娘カテリーナがトーマスとともに逃げられるようにと、身代わりになったエリザベスの死が悼まれます。冒頭のテーマに導かれて《Ⅶ、転生(フィナーレ) Transformation (Finale)》が始まると、曲は壮大な響きの中、幕を閉じます。

 


 

ウエストサイド・ストーリーより シンフォニックダンス

文:森山 慎也(当団打楽器奏者、第2部指揮者)

猛暑の夏が終わり、やっと秋を思わせる涼しさ寒さを感じられるシーズンとなってきました。そんな中、秋でも冬でも熱い!11月17日のキングズギャンビットの第6回ユアコンサート、メイン曲は、「ウエストサイド・ストーリーより シンフォニックダンス」です。「ウエストサイド・ストーリー」は、人種問題など様々な社会問題を盛り込みながらも、男女の恋を描き死別で幕を閉じる、現代のロミオとジュリエットといえる悲劇的なシナリオに加え、音楽面でもジャズとクラシックの両方の要素を絶妙に取り入れ、多くの人を魅了しています。本作は、ミュージカルの主要曲を再構成した演奏会用組曲で、凝縮された傑作ミュージカルの世界観を存分に楽しめると思います。

☆あらすじ☆

~ マンハッタン・ウエストサイド地区の白人系ギャング団『ジェッツ』のリーダー『リフ』は、元リーダーの『トニー』を誘い、プエルトリコ系移民【シャークス】のリーダー【ベルナルド】に対しパーティの場で決闘を申し込むが、そこで『トニー』と【ベルナルド】の妹【マリア】が恋に落ちる。
後日の決闘で【ベルナルド】が『リフ』を殺し、『トニー』が【ベルナルド】を殺す。【マリア】の婚約者【チノ】は、『トニー』を気遣う【マリア】に怒り、『トニー』の命を狙い、銃を持って出て行く。
再会した『トニー』を罵る【マリア】は、結局二人での逃亡を約束したが、警察の聴取で遅れそうになり、【ベルナルド】の恋人の親友【アニタ】に『トニー』への伝言を依頼。【アニタ】は、彼を匿う仲間の罵声を浴び、腹いせに「【マリア】は婚約者の【チノ】に殺された」と嘘を口走る。
逆上し【チノ】に自分も撃ち殺せと叫びまわる『トニー』の目に【マリア】の姿が映ったその時、【チノ】の銃弾に倒れ、『トニー』は【マリア】の腕の中で息を引き取る ~

劇団四季のページの人物相関図をみるととても分かりやすいと思います。この人物相関図、まさにロミオとジュリエットの世界ですよね。

ウエストサイド・ストーリー人物相関図(劇団四季HPより)
https://www.shiki.jp/applause/wss/character/

ロミオとジュリエット人物相関図(宝塚歌劇団HPより)
http://archive.kageki.hankyu.co.jp/revue/correlation/203.html

この「シンフォニックダンス」は、9つのシーンにて構成されています。それでは、順番にそのシーンをたどっていきましょう。

1.プロローグ
ミュージカル本編でも最初に演奏される緊張感のある5 小節の序奏に続いて、フィンガースナップ(指ぱっちん)も登場する少しユーモラスな雰囲気で始まります。前半の鼻歌のようなフレーズは主人公が所属する『ジェッツ』のテーマで、曲中で何度も断片が使用されます。

指ぱっちんの例その1

指ぱっちんの例その2

パワーアップした冒頭の再現の後、緊張感とスピード感あふれる後半に入り、ジェッツとシャークスとの抗争が始まります。
抗争は激しさを増し最後は警官の笛(曲中でも使用されます!)で強制的に中断され、少年ギャングたちは知らぬふりをして解散していきます。

2.サムウェア(どこかへ)
ミュージカルの後半に登場するこの部分は、敵対関係にあるギャング団の間で恋に落ちた二人にも、きっと安らげる場所はどこかにきっとあるはずだという願いを描いており、切なくも美しい旋律が絡み合うに続きます。

3.スケルツォ
先ほどの「サムウェア」=夢の世界を表現した部分で、テンポを少し上げ変拍子を多く含んだ、ふわふわした音楽です。抗争の象徴で扱われていたフィンガースナップも、ここでは優しく響きます。

4.マンボ
ラテンパーカッションのソロに導かれて、二つのギャング団がダンスバトルを繰り広げるシーンです。かなり荒々しさが前面に出たスリリングなスタイルです。
ギャンビットの定番曲「ダンソンNo.2」がメジャーになるきっかけともなった、シモンボリバルユースオーケストラの演奏が最高にアツイですね!!

シモンボリバルユースオーケストラのノリノリのアンコール(youtube)

5.チャチャ
バスクラリネットのソロに導かれ、トニーとマリアがお互いの存在以外は何も目に入らなくなった様子がフルートによってリズミカルに表現されます。

6.出会いの場面
リズムがなくなると、時間が止まってしまったかのように緩やかに進み、お互いの気持ちを確かめるように会話を重ねる場面です。

7.クール(フーガ)
ジェッツの押さえきれない興奮とそれを必死に押さえて「クールになろうぜ」という場面が表現されており、ジャズの雰囲気を前面に押し出した音楽になっています。
シャークスとの決闘の話し合いを目前に控え、数小節ごとでじわじわと高まっては弾け、高まっては弾けというのが繰り返されます。最後はフィンガースナップとともに消えていきます。

8.ランブル(決闘)
突然の打楽器の強打によって決闘に移ります。素手で戦う約束であったにも関わらず、ナイフを持った決闘に変わり、緊迫感に支配された音楽が展開されます。

9.フィナーレ
フルートソロのカデンツァを挟み、凶弾に倒れたトニーがマリアの腕の中で、この世界では二人は一緒になれないと訴えます。

マリアがトニーへの想いを歌っていた「アイ・ハブ・ア・ラブ」の主題に続いて、二人で歌った「サムウェア」が再現しかけます。しかし、それも息耐えるように消えていきます。どらちの曲も本来は希望に満ちた曲ですが一向に盛り上がらず、断片のなかに影を落としながら静寂の中に消えていくように曲は終わります。

バーンスタイン指揮 ニューヨークフィルハーモニック1976年(youtube)

 - 6th Your Concert, Program