King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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第9回定期演奏会 曲紹介

      2023/05/08

トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565/J.S.バッハ

ヨハン・セバスティアン・バッハが作曲したオルガン曲をサックスアンサンブルにて演奏いたします。

前半部の「トッカータ」では速いパッセージや細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲形式で、バッハが残した数多くの曲の中でも誰もが効いたことのある強烈な旋律で始まり、細やかな旋律を変化させながら演奏します。後半部の「フーガ」は一つの主題が次々と反復されていく楽曲形式を示しています。途切れることなく続く16分音符が次々と折り重なり、大きな音楽のうねりとなっていく様子を

様々なアンサンブル編成の中でも、同族楽器だけで統一されたサックスアンサンブル特有の一体的なハーモニーは、オルガン曲らしい重厚感のある響きを最大限に引き出すにあたって大きな魅力を発揮します。

ジャズ・タイム・トラベル/尾形一樹

打って変わって、サックスアンサンブルの2曲目は、ジャズの名曲を集めたメドレー形式の明るいナンバーです。

一口にジャズといってもその様式は様々で、時代ごとに名曲ありといったところ。この曲では『メイプルリーフ・ラグ(ラグタイム:1890年代)』、『聖者が街にやってくる(ディキシーランド:1910年代)』、『イン ザ ムード(ビッグバンド:1930年代)』、『スウィングしなけりゃ意味ないね(スウィング:1930年代)』、『フォー・ブラザーズ(クール・ジャズ:1940年代)』、『バードランド(1970年代:フュージョン)』が登場します。少しずつ変わっていくジャズのスタイルの変化を追いながら、ジャズとも縁の深い楽器:サックスの軽快な音色をお楽しみください。

ブリュッセルレクイエム/B.アッペルモント

この曲は、ベルギーの作曲家ベルト・アッペルモントによって、2016年3月22日にベルギーの首都ブリュッセルで発生した連続爆破テロの犠牲者を悼む鎮魂歌(レクイエム)として作曲されました。

曲は4つの場面に分かれており、『1:Innocence(罪もなく)』、『2:Cold Blood(冷血に)』、『3:In Memoriam-We shall Rise Again(追悼、そして我々は甦る)』、『4:A New Day(新たな日)』と、テロ行為による犠牲と追悼から屈することなく新たな日々を歩みだすブリュッセルを描いています。

冒頭、深い悲しみと嘆きを表しているかのような音楽からこの曲は始まり、『Au Clair de la Lune(月の光に)』というフランスの童謡が鍵盤楽器によって奏でられます。この童謡は曲全体を通して用いられますが、作曲者は「テロで破壊された無垢の象徴」としてこの旋律を用いたと語っています。テロ行為が引き起こした恐怖、悲しみ、怒り、無力感などの感情を想起させる前半部では遠くから呼びかけるように曲全体を通して何度も登場し、暗い感情との対比としてより強く不安や寂しさを感じさせます。一方で、葛藤を経て新たな希望へと歩みだす後半では、力強いファンファーレやフィナーレの強奏としてこの旋律が用いられ、立ち上がり取り戻そうとする日々の象徴のようにも感じられます。

この曲は、近年の全日本吹奏楽コンクールにおける自由曲として演奏される機会が多く、高難度なアンサンブルと激しい音楽が抜粋されることも多いですが、本日はノーカットの演奏でアッペルモントらしさを感じさせる説得力のある雄大な響きや、曲全体で変化する旋律の感じ方にもご注目いただければと思います。

 


 

四季連禱/長生淳

本演奏会のメインとして演奏をする長生淳による4曲はそれぞれ四季を題材に、ヤマハ吹奏楽団による委嘱作品として作曲されました。2000年から2003年にかけて1年に1曲ずつ書かれることになりますが、一作目にあたる『波の穂』を作曲した当初は連作にすることを想定しておらず、委嘱依頼が続くうちに連作としての構成を意識されたそうです。「四季に事寄せて祈るもの…すこやかな季節の巡り、ひいてはあるべき姿であること。」と意味を込めて『四季連禱(しきれんとう)』という四部作としての名称を付けられました。

これらの曲は一つ一つが壮大な情景を描いたもので、4曲を一度に演奏するというのは非常に稀な試みです。4曲を一度に演奏することで、共通する動機など兄弟作としての味わいをお楽しみください。また、聴いて下さる方々の人間らしいところにはたらきかけたい、という作曲者の願いを込めて、流れる時間の中にある人間の感情に寄り添う演奏ができればと思います。

波の穂

『波の穂』で描かれる季節は冬です。「雪が舞い、風も波も荒い冬の海」から着想を得たもので、冬の厳しい寒さと、その寒さの中でも力強く人間の願いが描かれています。委嘱元初演団体であるヤマハ吹奏楽団がかまえる浜松の海“遠江(とおとうみ)”にかけられ、「トトミ」から生まれた「ソソミ」(日本読みの音階でトとはソを指す)を動機に用いています。厳しい表情を見せたかと思えば、一転して寂しさを感じさせる、白波が押し寄せるような力強さと儚さを感じていただければと思います。

蒼天の滴 

『蒼天の滴』で描かれる季節は春です。この曲の冒頭は、厳しい冬の名残のような激しさから始まります。その後、青くどこまでもぬけるような空を行く爽やかな力強さを感じさせる音楽へと変わり、明るい推進力を感じさせます。しかし、また曲想は一転し、今度は変則的な8分の9拍子(タララタンタンタン)。この対立する主題について作曲者は「物思い心乱れるとき」として、春がもたらす多感な印象を表現しています。曲は冒頭の激しさを再現し、最後は高らかに「春の頌歌(しょうか)」によってこの素晴らしい季節をたたえ歌い上げます。

翠風の光

『翠風の光』で描かれる季節は夏です。この曲は唯一、楽章形式によって書かれ、全4楽章で構成されています。夏と聞いて思い浮かべる爽やかで明るい様子とは異なり、第1楽章から第3楽章までは激しさや物悲しい印象をもった音楽が続きます。作曲者は「実際の気候の移り変わりではなく、時に嘆き、悲しみ、あるいは憧れを抱き、あるいはそこへ向かって進もうとする、といった気持ちの流れを音に託したもの」として、表現しました。そんな感情を経てたどり着く第4楽章は、これぞ夏といった、ひときわ輝く太陽が照らす緑、その葉を揺らして吹き抜ける風の心地よさとあふれる光を感じられる楽章となっており、います。

楓葉の舞

『楓葉の舞』で描かれる季節は秋です。委嘱元であるヤマハ吹奏楽団における団員の別れと作曲者と楽団が歩んだ4年の日々との別れ、という感情が作曲にも影響したと作曲者は語っています。冒頭は強く叫ぶような激しさがありながら品を感じさせる音楽が疾走します。中間部では、語りかけるようなアンサンブルが静かに寂しい気持ちを伝え、どこかへ向かうことを予感させます。そして、たどり着いたのびやかで力強い旋律には、この別れの美しさとその後に続く道を肯定するような優しさを覚えます。ここまで長く一緒に歩んだ尊い時間への感謝とこれからの希望を願って演奏いたします。

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