King's Gambit Wind Orchestra

進化と挑戦を続ける吹奏楽団

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silhouetted / 八谷 誠人

   

第6回定期演奏会にて演奏される《silhouetted》について、本曲の作曲をされた八谷さんより寄稿いただきました。

 

《silhouetted》再演に寄せて

文:八谷 誠人

今回King’s Gambit Wind Orchetraの皆さまに演奏していただく拙作《silhouetted》は、私が所属していた京都大学吹奏楽団のOBバンド第3回演奏会のために2017年6月に作曲され、同9月に私自身の指揮で初演されたものです。本演奏会では、初演をふまえ微細な修正を施した2018年1月改訂版を取り上げていただくこととなりました。機会音楽として再演を全く想定しなかった曲ですが、このように再び実際の音にしていただき、より多くの方々へとお届けできることは、作曲者としてこれ以上ない幸せです。

本来プログラム・ノートというものには必ず字数制限があり、また実演の楽しみを損ねないよう書きすぎないというのが通例でしょう。しかし今回はネットの利点を生かし、このような紙面をいただきましたので(本当に面白い試みだと思います)、実演を聴くのがより楽しくなるような、この曲の一側面を皆さんにご紹介してみようと思います。

この曲を端的に表すなら、シャッフルするファンキーな16ビートによる、ジャズ風味のフュージョンです。多くのインストゥルメンタルのポップスと同様、特に何かを描写した曲ではありませんし、何らかの精神性を帯びているということもありません。白状すれば「シルエットになった」という意味のタイトルは後付けですし、締め切りのぎりぎりに語感だけで選んだものです。

そのため、この曲で私がこだわった点は純粋に音楽面にあり、それは吹奏楽のもつ機能から、どのようにこの曲を支配するファンキーなビートを引き出してくるかということでした。

曲を支配する大きな要素の一つにメロディーがありますが、今回は作曲のずっと前に浮かんでいた丁度よいメロディーがありました。そこで私が作り込むことにしたのは、曲の背景=伴奏です。その作り込みの実際を、曲のテーマ部分の作曲過程をデモンストレーションすることでお見せしましょう。

譜例1をご覧ください。始まってすぐ、短いイントロの直後にこの曲のテーマが現れるシーンの最初のスケッチ(再現)です。

オクターブで動く「メロディー」に対し、少し細かめの「ベースライン」と、4声の「ハーモニー」が当てられていることがわかるでしょう。この「メロディー」「ベースライン」「ハーモニー」を、私は吹奏楽の各楽器に割り当てていきました。

「メロディー」に関しては迷う余地がありません。このメロディーを思いついたときから、私はこれをサックス・セクションに演奏させることに決めていました。オクターブになっていますから、譜例2のように2パートずつ分けてしまいます。

次に「ベースライン」。ここからが少し課題です。割り当て先の楽器候補は、音域を考慮してファゴット、バス・クラリネット、テューバ、エレキ・ベースです(バリトン・サキソフォンはメロディーに回っています)が、スケッチの音型はどの楽器にとっても心地よく演奏できるものではありません。そこで、このスケッチを各楽器にとって自然になるよう読み替えます(譜例3)。エレキ・ベースが核となって指弾きを活かしたグルーヴの中心を形作り、木管低音はオクターブ跳躍を避けて16分音符の動きを見せ、テューバはビートの強調に集中する、という役割分担です。

最後に「ハーモニー」。私はこれをクラリネットとホルンに当てたのですが、これもそのままにするのではなく、ホルンに関しては2分音符を分割し、短めのスタッカートでビートを刻ませました(譜例4)。生き生きとしたリズムを維持しながら、ハーモニーの支えも実現することを狙っての配分になっています。

さらに、上のどの区分にも当てはまりませんが(あえて言うならハーモニー?)、私の大好きな楽器であるヴィブラフォンにも独立した動きを書き込みました(譜例5)。同じ動きをしている楽器はありませんので、目立って聞こえることはないのですが、全体にメタリックな色が少し加わることを目指しています。

これにイントロをつけて、スコア(総譜)の最初の2ページほどができました(譜例6)。

以上のように、メロディーの華に隠れる背景にはいくつかの層に分かれた仕掛けが働いており、それらがこの曲のファンキーなビートを実現するためにバランスを取り合っていることがお分かりになったかと思います。一聴楽しげな曲ですが、その表面とは少し異なる一面も見えたのではないでしょうか。

もちろん、これらの仕掛けが一聴して聴き取れるものとは全く思っていませんし、そうある必要も無いでしょう。ただこういった細かなところから、曲が全体として醸し出す一定の雰囲気が出てくるものと信じて、譜面を書き続けました。その効果の成否は、ぜひ実際に曲を聴いていただいた上で実感・体感していただきたく思います。私も改訂版の演奏がホールでどのように響くかが楽しみでなりません。

会場で、お会いしましょう。

 


八谷 誠人(やたに まさと)

大阪府羽曳野市出身。清風高等学校在学中、吹奏楽部で楽譜庫を漁るうちに作編曲に関心を持つ。京都大学吹奏楽団では2年間学生指揮を務めた。作編曲は独学。作品に《インディゴ・キュラソー》《シルエティッド》《テューバとアンサンブルのための「カント」》などがある。現在は大阪大学文学研究科(文化表現論)音楽学研究室に在籍、ブーレーズの作品分析を中心に研究を進めるかたわら、中部地方を中心としたプロ奏者による演奏集団Real Notesの作編曲担当として活動を展開している。

 

 - 6th定期演奏会, Program