交響曲第8番「マヨルカ島の山々」 / D. ブージョア ②曲紹介Part1
2018/05/04
文:向井友亮(当団マネージャー、テナーサックス奏者)
3回にわたって連載コラムをお送りする、第6回定期演奏会のメイン【交響曲第8番「マヨルカ島の山々」/D.ブージョア】。
2回目の本日は曲紹介Part1と題し、全六楽章のうち前半の三楽章について紹介することにしよう。ちなみに前回は演奏に寄せての意気込みを語らせていただいた。次回の曲紹介Part2と合わせて、本プログラムのことを知っていただければ幸いである。
さて、前回のコラムで少しだけ触れたが、交響曲第8番「マヨルカ島の山々」は曲名どおり各楽章タイトルがスペイン領・バレアス諸島州・マヨルカ島に実在する山に由来している。マヨルカ島は古くから「地中海の楽園」と呼ばれるほど有名なリゾート地であり、イギリスの生まれであるD.ブージョアも、晩年をこの島で過ごし、その頃にこの曲を書き上げた。「マヨルカ(Mallorca)」とは「大きい方」という意味のラテン語に由来し、ここらだと奈良県と同じくらいの面積だろうか、バレアス諸島最大の島で、州都パルマを中心に多くの人口を抱える活気あふれる島である。
この曲は全六楽章を三つずつに分けて、東西の二つの山脈に属する山々がそれぞれセットになっており、本日紹介するのは前半三楽章のPart1: Serra de Tramuntana(トラムンタナ山脈)である。(下図、オレンジで塗られた三曲)
それぞれの位置についても概略図で紹介しておこう。参考にしていただければ。
1) Massanella(マサネリャ)
第1楽章「マサネリャ」はマヨルカ島では2番目に高い点(標高1,345m)を含むいくつかの峰が連なっており、冒頭のイングリッシュホルン(オーボエ属の楽器)で奏でられるテーマも美しい稜線の起伏となんとなく沿っているような。島内では一般登山客が登ることができる最高到達点であり、また、山脈はこのマサネリャを中心に「トラムンタナ山脈の文化的景観」としてユネスコの世界遺産(文化遺産)にも認定される。農業には不向きな地形と気候でありながら、急斜面に石を積み上げて石垣と棚田をつくり、石橋をかけて農業用水路でつなぎ、水車の利用などで貴重な水を全農地に行き渡らせるといった作業を1000年以上にわたって続けてきた。山の持つ包み込まれるような優しさへの畏敬と、古くから積み上げられてきた人の営みの牧歌的一面、穏やかで美しいこの山の情景がまさにそのまま音楽で描かれている楽章である。
2) Puig Major(プイグ・マヨール)
第2楽章の「プイグ・マヨール(またはプッジ・マヨール)」はMajorの表記からも分かるかもしれないが、マヨルカ島の最高峰(1,445m)。しかし、この山頂には重要な軍事拠点が置かれているため立入禁止となっており、ここに一般人が登ることはない。この楽章で表現される音楽も、そうした軍隊的な要素を表す勇ましいマーチであったりと、これまた違った山の表情を見せる。険しさの象徴として描かれるのもまた山、押し寄せるような金管群の迫力にPuig Majorの圧倒的な迫力を感じていただきたい。
3) Teix(ティシュ)
第3楽章「ティシュ」はPart1の終楽章にあたる、トラムンタナ山脈の中では南西部に位置する山(1,030m)。天気がいいとパルマの街まで見えるほど見晴らしのいい山で、マヨルカ島に住む人たちの間でも人気があるらしい。この楽章においては山の稜線など「外から見える山」ではなく、一緒に登山をしているような、「体で感じる山」といったものを表現しているように感じる。というのもTeixの頂へは、その昔、オーストリアのルイス・サルバドル大公が作った、その名も「大公の道」というまんまなネーミングの乾燥した石で舗装された道を上っていく大規模な登山ルートがあるのだ。登山はまだ静かな朝に始まり、ゆっくりと山奥深くへと進んでいく。おっと、ところがどうしたことだ、急に始まる速いテンポでは、街でも見えたのか、それとも転がる石か。音楽はふたたびゆっくりな登山道に戻っていき、高まる熱はいよいよ頂上だろう、ここまで巡ったトラムンタナの雄大な姿にふさわしい終わりを迎える。
三つの楽章を通して一つのテーマが用いられており、トラムンタナ山脈の雄大な美しさがどの山でも表されるという仕掛けにも注意していただくと、よりおもしろい楽曲に感じられるかもしれない。
本日のPart1はここまで、次回は反対側、東にかまえるSerra de Artà(アルタ山脈)について紹介する。